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新約聖書の解説⑤ 使徒行伝

🔷聖書の知識132ー新約聖書の解説⑤ 使徒行伝


ある夜、幻のうちに主がパウロに言われた、「恐れるな。語りつづけよ、黙っているな」(18.9)


その夜、主がパウロに臨んで言われた。「しっかりせよ。あなたは、エルサレムでわたしのことをあかししたように、ローマでもあかしをしなくてはならない」(23.11)


『使徒行伝』の内容は、端的に言えば、原始キリスト教時代の歴史であり、使徒ペトロとパウロの宣教活躍が中心に描かれています。


【位置付け・著者・年代】

使徒行伝は『ルカによる福音書』の続編として、ルカの手で、聖霊に導かれて書かれたものであるとされ、この二書を併せて「ルカ文書」と呼ぶ場合があります。どちらも「テオフィロ」(神を愛する者)なる人物に献呈されています。成立年代としては、80年ごろであろうと言われています。


新約聖書の中で最も長い書であり(28章、1007節)、初代教会の状況を説明してくれる書で、使徒行伝がなければ、初期の信者たちが経験した葛藤、失望、神学的課題、希望などを理解することはできなかったし、初期キリスト教の研究には本書が不可欠であります。


特に後半には、「われら資料」と呼ばれる「わたしたちは」という記録があり(16.10~17、20.5~15、21.1~18、27.1~16)、これはルカ自身がパウロらと共にいたということを示しており、本書の史実の高さを証するものです。


本書は、エルサレムに誕生した原始キリスト教会が、地中海を反時計回りに広げられる過程を描いています。特にエルサレム教会と初期のユダヤ人のみのキリスト教コミュニティーが、ローマの軍人で、百人隊長の「コルネリウス」の洗礼(10.1~38)をへて、異邦人(非ユダヤ人)の間へと広がっていく様子が記録されています。


またパウロ書簡が書かれた背景と状況を説明してくれる書でもあり、この書なしには、パウロ書簡を十分に理解することはできないし、パウロがいかにして使徒になったのかも分かりません。


当初、パウロが生前のイエスを知らないこともあり、その使徒職を疑う者もいましたが、「聖霊が『さあ、バルナバとサウロとを、わたしのために聖別して、彼らに授けておいた仕事に当らせなさい』と告げた」(13.3)とある通り、パウロが使徒として召命されたことは疑いの余地はありません。またパウロ自身も次のように言っています。


「そして最後に、いわば、月足らずに生れたようなわたしにも、現れたのである。実際わたしは、神の教会を迫害したのであるから、使徒たちの中でいちばん小さい者であって、使徒と呼ばれる値うちのない者である。しかし、神の恵みによって、わたしは今日あるを得ているのである。そして、わたしに賜わった神の恵みはむだにならず、むしろ、わたしは彼らの中のだれよりも多く働いてきた」(1コリント15.8~10)


【構成】


使徒行伝の構成とルカ書の構成には共通点が見られます。


ルカ書は、洗礼ヨハネとイエスの誕生物語やローマ帝国の人口調査に関する記述から始まり、イエスが故郷ガリラヤで宣教し、サマリアからユダヤへゆき、エルサレムで十字架にかけられ、そこで復活し、昇天して栄光を受けられるという流れになっています。


使徒行伝はこれと呼応するかのように、エルサレムから使徒の活動が始まり、サマリア、ユダヤへと広がり、やがてアジア地方をへてローマ帝国の中枢にいたるという構成になっています。


このような構成は、使徒行伝の冒頭の「聖霊があなたがたにくだる時、あなたがたは力を受けて、エルサレム、ユダヤとサマリヤの全土、さらに地のはてまで、わたしの証人となるであろう」(1.8)という記述に表されています。即ち、エルサレム(1章 ~8章3節)、ユダヤとサマリア(8.4~ 9章)、全世界(10章 ~ 28章)という物語の展開に対応しています。


また使徒行伝は、ペトロとパウロという2人の使徒の活躍が中心でありますが、ペトロの活躍(1章 ~ 12章)の部分とパウロの活躍(13章 ~28章)の部分で全体を2つに分けることができ、以下のような構成になっています。


・キリスト教宣教の準備(1.1~2.13)

イエスの昇天とマティアの選出(1章)

聖霊降臨(2 .1~2.13)


・エルサレムにおける宣教(2.14~8.3)

ペトロの説教(2.14~2.47)

ペトロとヨハネの活躍(3章-4章)

アナニアとサフィラ(5.1~11)

使徒たちの活動と迫害(5.12~5.42)

ステファノら七人の選出(6.1~7)

ステファノの殉教(6.8~8.3)


・ユダヤとサマリアにおける宣教(8.4~9.43)

サマリア宣教(8.4~8.25)

フィリポとエチオピアの宦官(8.26~8.40)

サウロの回心(9.1~9.31)

ペトロの宣教(9.32~9.43)


・異邦人宣教の開始(10.1-15.35)

異邦人への宣教(10.1~11.18)

アンティオキアの教会(11.19~11.27)

ヤコブの殉教とペトロの投獄(12.1~12.19)

ヘロデ・アンティパス1世の死(12.20~12.24)


・パウロの世界宣教(13.1~28.31)

パウロの第一回宣教旅行(13.1~14.28)

エルサレムの使徒会議(15:1~35)

パウロの第二回宣教旅行(15.36~18.23)

パウロの第三回宣教旅行(18.24~-21.14)

パウロの逮捕とローマへの旅(21.15~28.14)

ローマでのパウロ(28.15~28.31)


【注目記事】


ここで、使徒行伝の主だった注目すべき記事について列挙し解説しておきます。なおルカには、ペテロの説教(2.14~40)、ステパノの説教(7.2~53)、パウロの弁明(22.1~16、24.10~21、26.2~23)、などの「説教・弁明」が記載されています。


・イエスの昇天と再臨予言(1.9~11)


「こう言い終ると、イエスは彼らの見ている前で天に上げられ、雲に迎えられて、その姿が見えなくなった。見よ、白い衣を着たふたりの人が、彼らのそばに立っていて言った、『ガリラヤの人たちよ、なぜ天を仰いで立っているのか。あなたがたを離れて天に上げられたこのイエスは、天に上って行かれるのをあなたがたが見たのと同じ有様で、またおいでになるであろう』」


・ペンテコステ(聖霊降臨)(2.1~4)ーキリスト教の出発


「五旬節の日がきて、みんなの者が一緒に集まっていると、突然、激しい風が吹いてきたような音が天から起ってきて、一同がすわっていた家いっぱいに響きわたった。また、舌のようなものが、炎のように分れて現れ、ひとりびとりの上にとどまった。すると、一同は聖霊に満たされ、御霊が語らせるままに、いろいろの他国の言葉で語り出した」


・ステパノの受難(7.57~60)-最初の殉教


「人々は大声で叫びながら、耳をおおい、ステパノを目がけて、いっせいに殺到し、彼を市外に引き出して、石で打った。これに立ち合った人たちは、自分の上着を脱いで、サウロという若者の足もとに置いた。こうして、彼らがステパノに石を投げつけている間、ステパノは祈りつづけて言った、『主イエスよ、わたしの霊をお受け下さい』。そして、ひざまずいて、大声で叫んだ、『主よ、どうぞ、この罪を彼らに負わせないで下さい』。こう言って、彼は眠りについた」


キリストの昇天(ジョン・コプリー画)聖霊降臨(ジャン・レスツー画)ステパノの迫害(小磯良平画)



・エルサレム教会に対する迫害(8.1)


「その日、エルサレムの教会に対して大迫害が起り、使徒以外の者はことごとく、ユダヤとサマリヤとの地方に散らされて行った」


・サウロ(パウロ)の回心(9.1~5)-パウロの回心体験の記録が、3度出てくる(9.1~43、22.1~30、26.1~32)


「さてサウロは、なおも主の弟子たちに対する脅迫、殺害の息をはずませながら、大祭司のところに行って、ダマスコの諸会堂あての添書を求めた。ところが、道を急いでダマスコの近くにきたとき、突然、天から光がさして、彼をめぐり照した。彼は地に倒れたが、その時』サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか』と呼びかける声を聞いた。そこで彼は『主よ、あなたは、どなたですか』と尋ねた。すると答があった、『わたしは、あなたが迫害しているイエスである』」


・異邦人の百人隊長コルネリウスの回心ー異邦人も聖霊を受け信者になる(10.1~48)。


「ペテロがこれらの言葉をまだ語り終えないうちに、それを聞いていたみんなの人たちに、聖霊がくだった。そこで、ペテロが言い出した、『この人たちがわたしたちと同じように聖霊を受けたからには、彼らに水でバプテスマを授けるのを、だれがこばみ得ようか』。こう言って、ペテロはその人々に命じて、イエス・キリストの名によってバプテスマを受けさせた」(10.44~48)


・ヤコブの殉教(12.1~2)ー使徒の初めての殉教


「そのころ、ヘロデ王は教会のある者たちに圧迫の手をのばし、ヨハネの兄弟ヤコブをつるぎで切り殺した」


・パウロの3次に渡る世界宣教(13.1~14.21、15.36~18.23、18.24~-21.14)


「ふたりは聖霊に送り出されて、セルキヤにくだり、そこから舟でクプロに渡った。そしてサラミスに着くと、ユダヤ人の諸会堂で神の言を宣べはじめた。彼らはヨハネを助け手として連れていた」(13.4~6) -第一次世界宣教出発


・異邦人の光パウロ(13.46~47)-第一次世界宣教途上


「パウロとバルナバとは大胆に語った、『さあ、わたしたちはこれから方向をかえて、異邦人たちの方に行くのだ。主はわたしたちに、こう命じておられる、『わたしは、あなたを立てて異邦人の光とした。あなたが地の果までも救をもたらすためである』」


「すると、主がわたしに言われた、『行きなさい。わたしが、あなたを遠く異邦の民へつかわすのだ』」(22.21)


・エルサレムの使徒会議(15.6~21)ー割礼など、異邦人信者への対応


「そこで、わたしの意見では、異邦人の中から神に帰依している人たちに、わずらいをかけてはいけない。ただ、偶像に供えて汚れた物と、不品行と、絞め殺したものと、血とを、避けるようにと、彼らに書き送ることにしたい」(15.19~21)


・パウロ、エルサレムで捕縛される(21.27~30)


「七日の期間が終ろうとしていた時、アジヤからきたユダヤ人たちが、宮の内でパウロを見かけて、群衆全体を煽動しはじめ、パウロに手をかけて叫び立てた、『イスラエルの人々よ、加勢にきてくれ。この人は、いたるところで民と律法とこの場所にそむくことを、みんなに教えている。その上に、ギリシヤ人を宮の内に連れ込んで、この神聖な場所を汚したのだ』。そこで、市全体が騒ぎ出し、民衆が駆け集まってきて、パウロを捕え、宮の外に引きずり出した」


・パウロ、皇帝に上訴する(25.10~11)

「パウロは言った、『わたしは今、カイザルの法廷に立っています。わたしはこの法廷で裁判されるべきです。もしわたしが悪いことをし、死に当るようなことをしているのなら、死を免れようとはしません。しかし、もし彼らの訴えることに、なんの根拠もないとすれば、だれもわたしを彼らに引き渡す権利はありません。わたしはカイザルに上訴します』」


【聖霊に導かれた奇跡】

なお、使徒行伝には、激しい迫害の中にあって、神がペテロやパウロを励まされ、癒しの権能を与えられ、奇跡によって導かれました。「そのころ、多くのしるしと奇跡とが、次々に使徒たちの手により人々の中で行われた」(5.12)とある通りです。


ペテロは足の不自由な男を、イエス・キリストの名により癒し(3.7)、中風のアイネアを癒し(9.34)、タビタを生き返らせ(9.40)、天使によって牢から救い出され(12.7)ました。


またパウロは、占いの霊を追い出し(15.18)、若者を生き返らせ(20.10)、牢の戸を開いて囚人の鎖をはずし(16.25~26)、聖霊を降ろし(19.6)、病気を癒し悪霊を追い出し(19.11~12)ました。


以上、使徒行伝を見て参りました。初期キリスト教はペテロ、パウロを中心に神の霊に導かれて、迫害の中にも、イエスをキリストとして大胆に証していき、主の言葉はますます勢いよく広まり、力を増して行きました(19.20)。次回は「ローマ人への手紙」を解説していきます。(了)




上記絵画*上段:聖ルカ(エル・グレコ画)