今後の政局と国策裁判の憲法問題-小林節慶應大学名誉教授の指摘
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- 8月11日
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◯徒然日誌(令和7年8月6日) 今後の政局と国策裁判の憲法問題-小林節慶應大学名誉教授の指摘
あなたがたに言っておく。神に義とされて自分の家に帰ったのは、この取税人であって、あのパリサイ人ではなかった。おおよそ、自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされるであろう(ルカ18.14)
プロローグ
先の参議院選挙で自民党が大敗し、一挙に政局は流動化し戦国時代に突入した。参議院選挙後の政局の焦点は、①石破首相の退陣問題、②保守の危機と再編成、③スパイ防止法の制定、の3点であり、本題の「国策裁判の憲法問題」に先駆けて論じることにする。
①石破首相の退陣問題
衆議院選挙、都議会議員選挙、参議院選挙と3つの大型選挙で大敗を喫した自民党総裁である石破茂首相が、未だに責任を取って首相を辞任することなく居座っている。普通なら一つの選挙で大敗しただけでも辞任するのに、3回の選挙で立て続けに敗北し、しかも与党(自民党・公明党)は衆参共に過半数割れを喫しているというのにである。今や自民党は辞任を求める保守派と石破氏を擁護するリベラル派の真っ二つに分かれて大分裂の様相を呈している。
日本保守党の北村晴男議員は石破氏を「醜い奇妙な生き物」とSNSに投稿して話題になったが、権力に執着する石破氏の姿はまさに醜悪であり、およそ日本の美意識からもかけはなれている。日本には「散り際の美学」という言葉があり、咲き誇る桜の美しさはまさに散り際にあるという。武士にも「滅びの美学」があり、運尽きて死すとも滅びの美だけは残す。その点、石破首相の政権維持の醜態はおよそ日本の美学からほど遠い。石破氏は終戦記念日の8月15日に80年談話を出したいのではないかとの憶測が流れており、70年の安倍談話でせっかく戦後レジームからの脱却を図ったのに、リベラルな石破氏が、この安倍談話を上書きして自虐史観に後戻りさせるのではないかと懸念されている。
石破首相は学生時代、日本基督教団鳥取教会で洗礼を受けたクリスチャンであり、石破氏が属する日本基督教団は、戦後左傾化し「日本は悪いことをした」との自虐史観に染まり、従軍慰安婦問題でも謝罪を続けてきた。石破氏が80年談話で、日本基督教団の歴史観に基づいて自らの信仰を表明する可能性があると危惧されている。
ところで戦後日本基督教団が左傾化した理由の一つは、キリスト教団が戦前の戦争に加担したという反省(負い目)から、大東亜戦争を「日本国家によるアジア・太平洋地域への侵略戦争」と規定し、反国家・反天皇を標榜するようになった。そしてこれらの認識は、まさに左翼思想と親和性があり、教団に共産主義思想が入り込む下地になった。キリスト教は、弁証法的唯物論に基づく共産主義の唯物史観を克服する歴史観と実践論を持ち得ず、共産主義思想の本質を見抜けなかったことで、教団が共産主義思想に汚染されることになったのである(参照→ 「つれづれ日誌令和5年2月22日-日本基督教団闘争史」https://x.gd/YEDHv )。
教団は「社会派」と「教会派」という内紛に発展し、特に1971年5月の東京教区総会は、乱闘、流血の事態になり、その後、社会派のキリスト教は、反靖国運動、天皇制反対運動、部落差別反対運動、反核運動など、左翼勢力の好む社会的テーマを追求することにより、完全に共産主義に乗っ取られてしまうような形になった。なお日本基督教団はUCを異端とし、政府によるUCの解散請求に関しても、是認するような曖昧な態度をとっている。
しかし一方、日本基教団高砂教会の手束正昭牧師が代表を務めた「日本民族総福音化運動協議会」や三重の畠田秀生牧師が代表の「聖書と日本フォーラム」は、保守派のクリスチャンの集まりであり、戦後レジームからの脱却や憲法改正を主張し、愛国心の必要性を説いている。
石破氏は、クリスチャン宣教団体「日本CBMC」が主催する「国家朝餐祈祷会」にはよく出席し、スピーチをしている。石破氏はキリスト教徒政治家として、クリスチャンの集会に招かれ、挨拶する中で、自らの信仰や政治姿勢について語り、聖書の「おおよそ、自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされるであろう」(ルカ18.14)を好んで引用した。まさにこのイエスの言葉の通り、石破氏はキリスト者の謙虚さを発揮してきれいに退任することを強く進言する。
②保守の危機と再編成
今回の参議院選挙ではっきりしたことは、岸田、石破二代に渡って続く自民党のリベラル化(左傾化)に嫌気がさした岩盤保守層が、参政党や日本保守党など他の保守政党に流れたことである。かって安倍長期政権で安倍路線を支持していた保守層が行き場を失ってしまった結果である。筆者は岸田政権がLGBT法案を成立させ、UCの解散請求を強行するという反宗教的政策をしたことで、自民党政権は天運を失い自壊すると予告したが、まさにその通りになってしまった。
仮に次期自民党総裁に小泉信次郎氏や河野太郎氏などの親中リベラル派が推挙されたなら、それはまさに自民党の終焉の鐘になり、このことは多くの保守論客が警告している。逆に進取の保守政党と自民党保守派が結束すれば保守再編成のよいチャンスになる。
③スパイ防止法の制定
筆者は前回7月30日の徒然日誌で、スパイ防止法は待ったなしの法律であり、スパイ防止法制定を保守団結の象徴として超党派で取り組むことを提案した。この取り組みを通じて、改憲という次のステップにつながり、またこれらの制定過程で、真性な保守思想としての勝共思想、即ち「頭翼思想」が日本の背骨として打ち込まれる貴重なチャンスになると信じるからである。
7月3日、国際勝共連合が都内で決起大会を挙行した。渡辺芳雄会長が講演し、保守団結のために勝共思想、即ち共産主義を克服する「頭翼思想」の必要性を訴えた。そしてスパイ防止法を第一の運動方針に掲げた。スパイ防止法は、1980年代に成立寸前まで漕ぎ着けたが左傾自民党議員に阻まれた苦い経験があり、今度こそはリベンジを果たしたい。
既に参政党の神谷宗幣代表、日本保守党の北村晴男議員、維新の会の石平議員はスパイ防止法制定に並々ならね意欲を表明している。そしてスパイ防止法は1980年代に国際勝共連合が国民運動を盛り上げ成立寸前まで漕ぎ着けた実績がある。(参照→国際勝共連合編著「『勝共連合かく闘えり』世界日報社P88~131)
【解散問題に関する小林節氏の憲法解釈】

さて今回の本題にはいる。憲法学者で弁護士である慶應義塾大学名誉教授の小林節氏は月刊日本8月号において、UCの解散請求手続きについて「違憲」だとする 文書を発表した。即ち、岸田政権は「民法」まで解散要件に入れたが、これは「有権解釈の変更」で、国会による立法権の侵害であること、また、宗教法人の解散は後見的な行政監督ではなく「法律上の争訟」で、非訟事件手続ではなく「訴訟事件」で扱うべきで、この解散請求手続きは「違憲」であると以下の通り明言した。
①信教の自由は「優越的基本権」
宗教は人類固有の営みであり、国家よりも上位の存在への信仰を前提とするため、歴史的に国家権力と衝突しやすかったとし、そのため自由民主主義国家においては、信教の自由があらゆる人権の先駆けであり、最も厳格に保護されるべき(憲20条)と、先ず大前提が述べられた。
②解散命令の根拠法が広すぎる
宗教法人法81条1項では「法令に違反し著しく公共の福祉を害した場合」に解散を命じうるとしているが、これは「犯罪」以外も含むあいまいな規定であり違憲であり、本来であれば、「刑法に基づく重大な犯罪」に限定されるべきであるという。
従ってこれまでの実務ではそのように解釈されてきたが、岸田政権は「民法」上の不法行為まで拡大解釈し、司法もそれに追随したのである(過料裁判)。これは「有権解釈の変更」であり、国会による立法権の侵害であるという。
③「非訟事件手続」ではなく「訴訟事件」で扱うべき
宗教法人の解散は「後見的な行政監督」ではなく、国家と信者個人の間に発生した対立という明確な「法律上の争訟」である。従って、憲法32条、82条に定められた「公開の裁判所による審理」でなければならないとし、現在の非公開手続きでは、国民の監視を受けず、手続きの公正が担保されないと述べた。
元武蔵野大学教授杉原誠四郎氏も、「この解散命令決定で最も問題になるのは、人であれば死刑に当たる宗教法人の解散につき、憲法82条に定める公開裁判を受けさせないまま解散させようとしていることです」(月刊Hanada9月号P274)と述べている。
④実際に非公開手続きで陳述書(証拠)の捏造
教団側の弁護士が、文科省が提出した陳述書に捏造があったと会見で指摘しているが、しかし地裁はその点を無視したまま解散決定を下した。これは「公正な裁判を受ける権利」(憲法32条、国際人権B規約14条)への重大な侵害であるという。
こうして小林氏は、以下の条項に明確に違反していると指摘し、多重に違憲・違法状態であると主張した。
a.憲法20条:信教の自由の保障
b.憲法31条:法定手続きの保障
c.憲法32条:裁判を受ける権利
d.憲法82条:公開裁判の原則
e.憲法14条:法の下の平等
f.憲法98条2項:条約遵守義務(国際人権規約B規約との整合性)
小林氏は、この手続きは信教の自由を不当に制限し、違憲・違法な枠組みで宗教法人を「国家が解体」しようとするものであり、これは「宗教に対する国家権力の乱用」であり、自由民主主義国家において決して許されてはならないと警告した。そしてこの論考は、単にUCの擁護という枠に収まるものではなく、「宗教と国家」「基本的人権と法の支配」という根幹的な憲法問題を扱っており、その違憲性と手続きの不備を憲法学の観点から告発する警鐘として位置づけられている。なお、小林氏は憲法問題で東京高裁に意見書を出している。
【解散問題に大きく関与してきた全国弁連】

この解散手続きの背景には、旧統一教会を長年批判してきた「全国弁連」の強い影響がある。全国弁連は、旧統一教会による霊感商法や献金トラブルの被害相談を多数扱ってきた団体とされ、マスコミでも「正義の側」として扱われてきた。しかし、以下のような重大問題が指摘されている。
先ず第一に全国弁連の設立の目的である。全国弁連は被害者救済というより、政治的目的で設立された団体である。即ち、1987年、勝共連合のスパイ防止法制定の運動に脅威を感じ、その運動を潰す目的で勝共連合の資金源となっているUCを叩くことを目的として設立された団体である。福本修也弁護士と杉原誠四郎元武蔵野女子大学教授の対談(月刊Hanada9月号)には、「全国弁連の立ち上げの目的は、左翼勢力に取って不倶戴天の敵である勝共連合の背後にいると思われたUCを叩くことが目的だったのである」(P282)と明記されている。
第二に、 証言の偏りと確認不足である。全国弁連が提供した証言には、教団に不満を持つ元信者(背教者)や親族により拉致監禁されて強制改宗させられた者が多く、現役信者や教団側の反論が公平に扱われていない。また被害が事実だとしても、それを「組織的犯罪」と認定するには慎重な証拠検証が必要である。
第三に、 拉致・監禁など人権侵害の黙認である。UCの信者に対して、親族や脱会屋が拉致監禁して脱会を迫る「強制改宗」行為が行われていたことは、国内外の人権団体からも問題視されている。全国弁連は、この拉致監禁に積極的に関与したことは明らかである。
こうして全国弁連の見解は政治やメディアにも大きな影響を与え、UCに対する「一方的な悪のイメージ」を定着させ、その結果、信者個人の人格や生活までもが攻撃される社会的空気が広がっている。
最近、全国弁連は、「被害者救済特例法」(2023年12月13日)を悪用して、統一教団本部(東京都渋谷区)の仮差し押さえを強行したが、これは和解調停中の未確定の債権で、その必要性も緊急性もない完全なパフォーマンスである。UCには当該土地の処分を行う意図となど更々なく、このことは全国弁連は百も承知なはずであり、当該仮差し押さえは「悪のイメージ形成のプロパガンダ」であることは明らかである。
以上、参議院選挙後の政局の焦点について述べ、特にUCの解散問題における小林節氏の憲法解釈について論考した。今年中にも控訴審の結論が東京高裁から出されると思われるが、上記した小林節氏の憲法上の指摘をよくよく吟味され、適切な判断がなされるよう祈念する。(了)
牧師・宣教師 吉田宏